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道平が口をうごかせるまでには随分手まどつた。
真黒い顔の男が傍によつて訊いた。
「あのね、何ですよ――」
「何んにも訊かんといて下さい。ちよつと間違ひが起きたんやで、――それは、後でお話しますわ――とにかく、手当を頼みます」
房一は満足げに、かへつて来た犬の頭をかるくたゝいた。
富田は房一に声をかけて彼のために席を明けながら、つづけて
「ありがたう。――あ、大きいね」
「すまんでしたな、長話をして」
「往診?ふむ、ふむ」
そこへ房一が帰つて来たのだ。盛子は横坐りの所を見られまいとして慌てて立上つた。
相手は何か答へたらしかつたが、房一のところへは聞きとれなかつた。今まで静まりかへつて事の成行を見まもつていた人だかりが急にどよめいたからである。そして、柵の向ふでは、相手になつている男のうしろに出張所側の連中がかたまつていた。その長身の男も今更後へはひけないと云つた様子だつた。その時、房一の肩をまだ押へつゞけていた練吉の手が痙攣するやうにふるへた。
きよろりとした眼でしきりと家の中をのぞきこみながら、しばらくして
「かりに、おれが真正面から反抗的に出て、それがために住みにくくなつたとしても、同じことだ」